感電防止

冬ですね。 真空管アンプの季節です。 冬は特に自作用にと多数のお客様が真空管を注文されるので、今ごろ皆さん自作アンプに灯を入れたりしているのではないでしょうか。 

ところで真空管アンプで避けて通れないのが高電圧です。 

真空管アンプを 自作、修理される方は高電圧を扱う際の注意事項をおわかりだと思います。 私達が親しくしている熟練リペアマンに聞いた真空管アンプ修理の鉄則というのをご紹介すると

  1.  内部を触る時は片手はポケットに
  2. 飲酒厳禁、絶対に酔って真空管アンプを触るべからず
  3. 電源のコンデンサーが放電した事を確認すること

です。 1は万が一感電した時、両手間に電流が通らないため。 2は事故の元を断つ!(経験から?)ですが、意外と多いのが3番です。 これは見落としがちで、不意打ちで痛い目にあうのです。

電源にブリーダー抵抗が入ってないとコンデンサーに蓄積された電荷でコンセントを抜いても高電圧回路(B+)に電圧がかかったままになります。 アンプによっては長い時は何時間も電圧がさがらないので確認しないで配線や修理を始めてしまうともちろん感電してしまいます。 

このB+残留電圧はTube Rollingするときにも問題になります。 たとえば半導体と真空管の両方を使ったアンプの場合、たとえプリ管でも電源電圧がそこそこ残った状態で真空管を抜き差しするとかなりの確率で周りの半導体がやられてしまいます。 

 また前回の雑記でソケットの劣化を防ぐために、真空管の根元をつかんでできるだけ揺らさずに抜くと書きました。 ですが、6550・KT88のような真空管でピン1が金属ベースに接続されているものがあります。 まれにですが、ピン1を配線ポイントに使っているアンプがあり、電源を切ったのにベースを触りながら抜き差しするとビリッときてしまいます。 

このような事を防ぐのはB+が放電してからにすれば安心です。 スタンバイスィッチがついているアンプはフィラメントを点火したままでB+を切る。 自作アンプや修理の場合はまず残留B+電圧を確認して、ブリーダーで放電させる。 

また、金属ベースをつかむ際は真空管が十分に冷えてから念のために布でつかむようにして絶縁するなどの注意が必要です。 

寒いこの季節、アンプいじりは楽しいものですが、みなさんぜひ安全にはお気をつけください。

ピン接触

同じタイプの真空管をいくつか聞き比べする事をTube rolling と言います。

たとえば同じ12AX7でもメーカーや製造時期によって意外と音が違うもので、これが結構おもしろいものなのです。 オーディオもそうですがギターアンプは特に音の違いが顕著で、問い合わせはよくあります。 なので、私達も門外不出の聞き比べ専用真空管コレクションを持っているぐらいです。

ところでこのチューブ・ローリングをくりかえしていると、真空管を何度も抜き差しするわけですが、これには気を付けないといけない点があります。

比較的新しいソケットは真空管を抜くときに力が必要なので、真空管を揺らすように斜めにする事をくりかえして抜いてしまいがちです。 これが後の問題につながります。

ソケットによってはこれでパワー管のセンターピンを簡単に折ってしまいますが、それより大きな問題はソケット内の接触金具を広げてしまうことです。これで抜き差しは楽になりますが今度は接触不良の可能性が出てきます。

プリ管で真空管を触るとバリバリ・ザーと言う雑音が出てきたりとまったりするのはこのソケットの接触不良です。 パワー管でも雑音がでるほかグリッドが接触不良を起こすと熱暴走につながります。

今使っている真空管で問題が無くとも、真空管のピン径にも違いがありますので、真空管を変えてみたらノイズが出てくるようになったと言うこともあります。ソケット内の金具はある程度動くようになっているので配線のハンダに応力が繰り返しかかり、イモハンダみたいにボロボロになった例を見たこともあります。

このように真空管の抜き方しだいでいろいろな問題につながるのですが、これを避けるには抜く時に注意するしかありません。

と言っても大した事はなく、頭を持って揺らしながら抜くことはせず、根元を持ってまっすぐに少しずつ抜くようにするだけです。 私どものエージング機材やテスターは年に数千本の真空管を抜き差ししますが、抜き方に気をつけているだけでソケットの金具が緩んでしまうようなことはありません。

他にもNOS真空管やビンテージアンプなどでソケットやピンの汚れから接触不良を起こす事があります。緩んだソケットと相乗効果で特に問題がおきやすいものです。 これは接点洗浄が必要ですがスプレー式はそこら中にかかってしまうので避けた方が賢明です。

古いNOS品の場合、私どもは写真のような接点洗浄ペンを真空管のピンに必要最低限つけ、完全にふき取ってからテストするようにしています。 ソケットが緩んでいなければ接触不良による雑音や動作不安定などの問題がこれでなくなります。

5963


雑記を再開してから、すぐに毎日相当数の方からアクセスいただくようになりました。 正直アクセスの多さに驚いているぐらいです。 やはり真空管関連のトピックへの興味は大きいようですね。

さて5963と言う12AU7近似の真空管があります。特性は近いのですが、プレート耐圧が12AU7Aより低めです。 また、それ以外にカソードが長時間のカットオフに耐えられるように作ってあります。

ご存知の方も多いと思いますがこの5963は真空管コンピューター用に開発されたもので、長時間カットオフ状態にしてもカソードが劣化しないようになっているのはそのためです。 真空管コンピューターは米空軍がNORAD等でなんと1970年ぐらいまで使用しており、いまだに保守用の5963がNOSで出回っています。

写真の真空管はRCA製の5963で1971年のデートコードがついています。 この時代まで実際に製造していたのかちょっと半信半疑ですが、エッチングされた型番もRCAスタイルです。 この時代にはもう真空管は低コストの保守用品で、実際この真空管もベースとガラス管の接合部があまりきれいでなくシモブクレな顔をしています。

1971年といえばすでに半導体時代。たった5年後にRCAは8ビットCPU、COSMAC 1802を発表します。この1802は宇宙探査機ボイジャー に使われている事で有名ですが、最近の衛星や探査機にも使われています。5963と言い、真空管・半導体コンピューターの黎明期に開発された部品は長寿命なようです。

試しに5963でDフリップフロップを組んでみたことがありますが、意外と高い周波数まで ちゃんと動作しました。 カソードフォロワなどで使うのも良いかも知れませんが、真空管アナログシンセなんて面白そうです。

12AX7と真空管試験機

冬たけなわですね。 サンディエゴはちょっとした異常気候で暖かく、真空管を扱っているスタッフが暑がって扇風機をかけるぐらいです。

写真は真空管テスターのメーターです。 真空管テスターは真空管の電極に所定の電圧をかけて性能をチェックするもので、私たちも数台使っています。

この真空管テスターは大きく分けて二通りあります。 まずエミッションテスターと呼ばれ、2極管動作をさせて最大電流を測るタイプ。 そして相互コンダクタンステスターと呼ばれ、実際に増幅動作をさせて信号を計るタイプです。

前者のエミッションテスターは真空管を2極管接続、つまりダイオードとして扱い、どれだけ最大電流が流れるかで良・不良を判断します。 もし流れるべき最大電流以下だったらエミッションが下がっていると言う事なのですが、これは最大電流値がこれぐらい、と言う前提があります。

昔、アメリカで真空管が製造販売されていた頃はこれでよかったのですが、数十年後の現在、現行品はロシアなどでコピーされた真空管がベースになっています。 これらの真空管はオリジナルのデッドコピーでなく、改良が重ねられているのですが、そのためエミッションテスターで正確に測れないものがあります。

特に例として現行品12AX7でマイクロフォニックスを低減するために内部構造を小型化したタイプは最大電流が数割低くなっています。 12AX7は最大電流よりずっと低い条件で使われるので、実用には全く問題がありません。 でも実際には使用されない領域の最大電流が低いためにエミッションテスターではカソードが劣化してなくても不良と出てしまうので、注意が必要です。

実際にカソードの劣化を計るには、フィラメント電圧を下げてコンダクタンスの変化を見るのが一番正確です。 元気なカソードはフィラメント電圧が下がってもコンダクタンスはあまり低下しません。 くたびれてエミ減になった真空管はフィラメント電圧が1割下がっただけでコンダクタンスが何割も減ります。

コンダクタンステスターにはたいていこのエミ減テスト(ライフテスト)機能が備わっており、私どもも真空管をテストする時に使っています。

Genalex Gold Lion KT66

Gold Lion 続きですが、せっかくですからKT66も見てみるとしましょう。

KT77はEL34と互換ですが、KT66は6L6と近似とされています。 これはKT66は6L6よりフィラメント電流が高く、プレート電圧定格も高いなど、どちらかとスーパー6L6と言った性格の真空管だからです。

KT66のオリジナルはイギリスのMOV社製ですがこれはもうNOSや中古でも相当高価です。

現行品で私どもが取り扱っているKT66はGold Lion以外に中国製KT66-CH、タンソルのKT66-TSとJJのKT66-JJがあります。

このほかGroove Tubes社が販売していたロシア製のKT66HPがありますが、これは残念ながらもう製造されていません。

中国製KT66-CHはオリジナルによく似たつくりで、JJ とタンソルKT66はKT88のガラス管を流用した頑丈な造りとなっています。比べてGold Lion KT66はベースや外形など、オリジナルの雰囲気を踏襲しながら内部構造を現代風にしてあります。

オリジナルはガラスを伸ばした中にピンからのワイヤーを通してありますが これはKT66-CHもKT66HPも同じで、ここにプレートボックスを取り付ける際に高さが不均一になりがちです。JJとGold LionのKT66は、現行KT88と同じ工程で外形を均一にしやすくなっています。

Gold Lion KT66の造りはGold Lionの現行品に共通する良さです。真空管というとついつい外形を見てしまいがちですが、造りの丁寧さは内部のディテールに反映されています。

音質に関してですが、オーディオアンプで使うと現行品で標準とするKT66-CH よりもっと力強く、厚みがあります。 古いクラシック録音などと相性が良い印象でした。

またJTM45のようなギターアンプでも使ってみましたが、KT66-CHと良い勝負でした。ギターアンプではバイアスをちょっと低め(無信号時のプレート電流を低め)にすると高域に華やかさがでてきてよい感じです。

Genalex Gold Lion KT77

ご存知の方も多いと思いますが、Genalex Gold Lionはアメリカの会社が商標を買い取ったもので、現在Genalex Gold Lionブランドで数種の真空管が復刻板として発売されています。

このGold Lionシリーズの特徴は造りの良さで、たとえばマイカは精度よくきれいにカットしてあり、重めのガラス管に丁寧に封入してあります。ピンのハンダは驚くほどきれいですし、プレートボックスを合わせる圧着もきれいにしっかりとしてあります。

このGold Lion KT77も厚めのガラス管にきれいに封入してあります。EL34を使ったギターアンプではマイクロフォニックスが問題になる事があるので、管壁が厚いのは好ましいことなのです。オクタルベースは丈が低めの物ですが、全体の高さとしては普通のEL34と一緒です。

このGold Lion KT77の音質ですが、EL34と差し替えてオーディオアンプで鳴らすと、ビーム管特有の高域の抜けの良さがとても良い感じです。

特筆すべきはこのKT77はEL34の中域の良さを兼ね持っているところで、とかく飽和気味なコンテンポラリーの音源もバランスが崩れることなくこなす印象です。