真空管のマッチング(パワー管)

アンプで使うパワー管はたいていの場合選別して特性が近い物を選びます。でもこのマッチングって何よ、実際のところ必要なの、と聞かれる事があります。

パワー管は均衡に動作して欲しいので特性が近いものを選別します。 バランスが崩れているとクロスオーバー歪みが増えたり、トランスの磁気飽和によって低域がでなかったりします。 極端な場合、プッシュプルの一本だけに全部電流が流れてしまうと過熱してしまったりもします。 なのでプッシュプルにはマッチングペアは必要です。

ただ、どれぐらい近いペアが必要かと言えば測定器で微妙な差が測定できても、そこそこあっていれば音にそんなにはっきり違いが出るものではありません。

なので、当店で時には神経質なぐらい選別しているのは、これはもう自分たちの好みとこだわりでやっている所があります。

重くて熱くてなにかと不便な真空管アンプをわざわざ作ったり使ったりというのはそれなりの思い入れがあるからだと思いますが、そこに使う真空管にもやはりこだわりがあるものなのです。

さらに真空管は手作りで個体差が大きいものなので、ガラス管が傾いてたり高さが違ったりとばらつきがあります。 ある程度の違いはどうしようもないのですが、メーカーによってはばらつきが多きかったりします。

使うアンプの機種がわかっていると、電気特性はばっちりあってるんだけど、外見はもうちょっと近くないとダメだね、と選別するスタッフが試験機に並んだ真空管を前にため息ついてたりします。

 

スベトラーナ

ながーい話なのでまた細かく説明するのはやめておきますが、スベトラーナブランドはCロゴとSロゴがあるのはご存知かと思います。 厳密に言うとアメリカではスベトラーナはSロゴ品の登録商標で、Cロゴ品はSEDと言うブランドです。

もっとも、SEDはSvetlana Electron Device, つまり「スベトラーナ電子部品」の略なので、消費者をおちょくっている疑いは拭えませんが。

このCロゴはロシアのスベトラーナ工場(Svetlana JSC傘下のSvetlana-SED Pb)で生産されています。この工場がガラス管生産を中止するようです。

北米ではCロゴの6550が入手できない状態がずっと続いていていたので、北米には既に流通在庫が無いのだと思います。 6L6、EL34についてはしばらく前から卸値がどんどこ高くなってしまうので扱いをどうしようかとまで考えていたところでしたが、他の品はまだ相当数在庫がありそうですし、工場から出荷されてまだ流通に乗っていない真空管が大量にあるので、今日明日無くなるという話では無いようです。

真空管は大量に(万本単位で)生産しないと利益があげにくいものなので、十分な生産量が無いとビジネスとしてなりたちにくいようです。他のロシア製真空管やスロバキアのJJが新型品を増やしつつある中、スベトラーナ工場は6L6GC、EL34, 6550, KT88 の4種類のみの生産だけでした。高いブランドイメージで高級路線を行き、他のメーカーよりだいぶ高価な事もあり、十分な生産量が確保できなかったのではないでしょうか。

最終確認は取れていないのですが、それにしても残念な事です。

スタッフより

アメリカから日本のテレビがインターネットで見れる時代になりましたが、次から次へと映し出される東北地方の被害の大きさに私ども一同、言葉もありません。

皆様のご無事を心より祈っています。

トランス温度

そう言えば、とだいぶ前に故障して放っておいたギターアンプをなおしていました。このアンプ、大音量でかき鳴らしているとバリバリと雑音が入りヒューズが飛んでしまうのです。

オーディオ真空管アンプとギターアンプの電源周りはけっこう違います。オーディオは電源がなるべく変動しないようにするわけですが、ギターアンプは電源変動は楽器のピークを吸収してくれたりと音色の内です。 著名なアンプでも出力段のバイアス電流次第でどんどんB電圧が変わったります。あちらを押せばこちらが下がり、とまぁはっきり言えばいい加減な動作なのですが、このいい加減さが音の良さなのです。

で、いい加減なギターアンプの電源ゆえにトランスを定格いっぱいで使う設計が普通にあります。 今治しているアンプも、ダミーロードに繋ぎガンガン鳴らしている状況を作ると電源トランスがすぐ40度を越す熱さになります。 びっくりものですが実は相当数の大出力ギターアンプが同じようになるのです。

これが普通だと言えばそうですが、定格を無視した設計はマージンが無い訳で、今回のように問題がある場合、無理に使い続けるとトランスから煙が出たり、ワックスが溶け出てきたり、最悪断線するので危険です。 煙を吐きながらも音はしっかり出るのですが、ヒューズが飛ぶからと大容量の物に変えたり、直結しちゃったりするのは厳禁です。

このアンプは年代モノで出力管のカップリングコンデンサーがリークしていました。大音量でならしているとグリッド電圧がおかしくなりヒューズが飛んでいたようです。 良くある問題でコンデンサー変更で解決しました。

キットアンプ

アメリカにポピュラー・メカニックスと言う雑誌があります。 日本の「子供の科学」をそのまま大人向けにしたような科学・技術雑誌です。

内容は電子工作から日曜大工、自動車修理から宇宙船までとにかく男の子が興味を持ちそうなトピックばかり扱う雑誌です。これが大の大人向けだというのがいかにもアメリカらしい所ですが、創刊は1901年でいまだに出版されているから驚きです。

この雑誌のアーカイブが最近Google Booksにスキャンされて出てくるようになりました。 これが面白いのです。 特に真空管アンプの黄金期だった1950−1960年代のオーディオ記事がやたらと面白い。

例えば1960年3月号のハイファイの説明記事があります。ハイファイとはなんぞや、と周波数特性、定格出力対高調波歪、さらに混変調歪にまで踏み込んでていねいに図入りで説明してあります。どうやら執筆者はかなりのオーディオオタクだったようで親近感を持ってしまいます。

1960年と言えばアメリカでもまだモノラルが一般的だった頃なので、「スピーカーはモノラルのままでも、アップグレードするならステレオアンプに投資するのが賢明だ」というくだりもあります。 確かにこの頃のステレオアンプは両チャンネルをパラ接続できるというのがうたい文句で、その際パワーが倍になるというのがポイントでした。

さらに面白いのが「キットアンプは完成品アンプに遜色無い」と、組立ができる人ならキットはとても安価にできると勧めています。ベストセラーと言われるDynaKit ST70が当時100ドルですが、キットは安価と言っても1960年のアメリカの一般家庭の平均年収が5300ドルだった事を考えれば安くはありません。 現代の感覚だとデジタル一眼一式をそろえるような物でしょうか。

参考までにダイナコ ST70オリジナル美品は2010末の現在400-500ドルで取引されており、値上がり傾向にあります。 復刻版のキットもでていて、これは700−800ドルです。

キットアンプの選択肢として当時の代表的なアンプが幾つか写真に値段入りで出ています。記事に出ているキットはEICOやDynaKit, Knightなどアメリカで未だにファンが多いアンプ達で、1960年当時、きっとみんなワクワクしながらこの記事を読んでいたんでしょうね。

iPadで真空管

iPad でも見れる、BOI AudioWorks 真空管通販サイト

BOI AudioWorks on iPad

アップルのiPad、良いですよね。お持ちの方はご存知でしょうけど、インターネットを閲覧するのにはなかなかスグレモノです。

かなり以前からですが当社のサイトへのアクセスもiPadやiPhoneが少しずつ増えています。 なので念のためにと真空管の通販サイトもiPadで表示の確認をして若干手直しもしました。 ちなみに横表示すると十分見えます。

写真はちょっと見にくいですが、iPad上の表示をスクリーンショットに落とした物です。 iPadは表示がきれいなので写真を見るのが楽しいですね。

それもあってか先月ぐらいからiPadやiPhoneでサイトを閲覧、そして購入する方も出てきました。 カッコ良いですよねぇ。 どこかのカフェでモレスキンかなにかの手帳を広げ、メモを見ながら指先でかろやかに入力してる姿を想像してしまいます。

今年はアーサー・クラークのSF、2010年宇宙の旅の舞台になる年です。映画のような世界にはならなかったとは言うものの、タッチスクリーンのタブレットで真空管を海外から買っちゃうなんて、ある意味SFが現実になったようなものですね。