ちょっと前にツィッターで予告しましたが、JJが最近発表した5751、さらにあわせて5751という型番の真空管を取り上げてみようと思います。
5751開発目的は航空安全の向上
5751は1940年代末期に発表された真空管です。当時、発展途上の米国航空産業で、真空管の信頼性不足が問題になり、真空管メーカーへ高信頼管の呼びかけがされました。それに応える形でGEが発表した高信頼管シリーズの一品種が5751です。
当時は品質管理の手法などが行き渡っておらず、民間用の真空管は不良がとても多かったようです。GEの資料を見ると民間用真空管は1000時間毎の不良率は60パーセントにもなったとの事で、真空管を使う通信機の信頼性はかなり深刻な問題だったようです。
GEの資料では5751 (12AX7)や5814 (12AU7)でこの不良率を1000時間あたり2パーセントにまで下げて航空産業の安全に貢献したとうたっています。
5751は12AX7ではない
5751は電気特性は12AX7に近いけれども増幅率が異なり最大定格もちょっと違います。増幅率の変更は品質管理のためでもあったのでしょうか、12AX7をそのまま高信頼化せず(できず?)増幅率をちょっと落とし、違う品番にしました。
またGEは5751を12AX7の高信頼版という位置づけにしていましたが、これは現代にはあてはまりません。数十年前とちがい現代は品質管理の手法が発達していますし、最近は真空管はニッチでいわば贅沢品なので無理なコスト圧縮による不良率も高くありません。なので現行の5751も12AX7も信頼性にかわりはありません。
ギターやオーディオアンプのみに真空管が使われるようになった現在では現行の5751は12AX7と同等の信頼性で、特性が違う真空管と考えてよいと思います。実際にギターアンプでは12AX7と5751はけっこう違う音がでますし、オーディオの回路にしても5751に特化した設計で特性を生かすのも大いにありだと思います。
JJ 5751
JJの5751は大したアナウンスも無く発表され、ある日取引先に在庫があるのに気がついたぐらいの控えめな登場でした。でも5751は現行品はラインナップが少ないので品種が増えるのは喜ばしい事です。そこで今回、JJ 5751を30本ほど入荷していろいろ試験してみました。
検査結果からの抜粋は以下の通りです。
- 外見構造はJJ ECC83Sと全く同じ。
- Ep 200V、Ip 1mAで計った平均値は gm=2000、mu=82
- 全般的に3極マッチングと偏差はECC83Sよりかなり良い。
- ノイズフロア(入力換算)はJJ ECC83Sとほぼ同等。
- マイクロフォニックは非常に良好。
参考までに同条件で計った他の真空管の平均値は
- JAN GE 5751: gm=1650 mu=75
- JJ ECC83S: gm=1800 mu=95
となり、JJ 5751はコンダクタンス値が高く、ミューがJAN GE 5751とJJ ECC83Sの中間ぐらいになっています。 JAN GE 5751よりコンダクタンス値がかなり高いですが、内部抵抗を計算すると同じくらいになります。 JJのECC83Sもそうですがノイズフロアはとりわけ良くもないけど悪くもありません。ですがマイクロフォニック雑音は特記すべき低さです。
これは推測ですが、内部を5751として再設計した訳ではなく、おそらくECC83Sとカソードも含めてほとんどの部品は共通のままに、ミューが5751よりの特性になるようにグリッドワイヤーを巻いているのではないでしょうか。この辺、JJの中の人達はけっこう気さくに問い合わせに返事をしてくれるので今度聞いてみようかと思います。
と言う事で、JJ 5751は、ECC83Sを改良して、通常の12AX7と互換ながら低マイクロフォニックでひと味違った音色の真空管にできあがっています。 ギター・オーディオアンプともに使える選択がこうやって増えるのはなかなか良い事だと思います。