5963


雑記を再開してから、すぐに毎日相当数の方からアクセスいただくようになりました。 正直アクセスの多さに驚いているぐらいです。 やはり真空管関連のトピックへの興味は大きいようですね。

さて5963と言う12AU7近似の真空管があります。特性は近いのですが、プレート耐圧が12AU7Aより低めです。 また、それ以外にカソードが長時間のカットオフに耐えられるように作ってあります。

ご存知の方も多いと思いますがこの5963は真空管コンピューター用に開発されたもので、長時間カットオフ状態にしてもカソードが劣化しないようになっているのはそのためです。 真空管コンピューターは米空軍がNORAD等でなんと1970年ぐらいまで使用しており、いまだに保守用の5963がNOSで出回っています。

写真の真空管はRCA製の5963で1971年のデートコードがついています。 この時代まで実際に製造していたのかちょっと半信半疑ですが、エッチングされた型番もRCAスタイルです。 この時代にはもう真空管は低コストの保守用品で、実際この真空管もベースとガラス管の接合部があまりきれいでなくシモブクレな顔をしています。

1971年といえばすでに半導体時代。たった5年後にRCAは8ビットCPU、COSMAC 1802を発表します。この1802は宇宙探査機ボイジャー に使われている事で有名ですが、最近の衛星や探査機にも使われています。5963と言い、真空管・半導体コンピューターの黎明期に開発された部品は長寿命なようです。

試しに5963でDフリップフロップを組んでみたことがありますが、意外と高い周波数まで ちゃんと動作しました。 カソードフォロワなどで使うのも良いかも知れませんが、真空管アナログシンセなんて面白そうです。

12AX7と真空管試験機

冬たけなわですね。 サンディエゴはちょっとした異常気候で暖かく、真空管を扱っているスタッフが暑がって扇風機をかけるぐらいです。

写真は真空管テスターのメーターです。 真空管テスターは真空管の電極に所定の電圧をかけて性能をチェックするもので、私たちも数台使っています。

この真空管テスターは大きく分けて二通りあります。 まずエミッションテスターと呼ばれ、2極管動作をさせて最大電流を測るタイプ。 そして相互コンダクタンステスターと呼ばれ、実際に増幅動作をさせて信号を計るタイプです。

前者のエミッションテスターは真空管を2極管接続、つまりダイオードとして扱い、どれだけ最大電流が流れるかで良・不良を判断します。 もし流れるべき最大電流以下だったらエミッションが下がっていると言う事なのですが、これは最大電流値がこれぐらい、と言う前提があります。

昔、アメリカで真空管が製造販売されていた頃はこれでよかったのですが、数十年後の現在、現行品はロシアなどでコピーされた真空管がベースになっています。 これらの真空管はオリジナルのデッドコピーでなく、改良が重ねられているのですが、そのためエミッションテスターで正確に測れないものがあります。

特に例として現行品12AX7でマイクロフォニックスを低減するために内部構造を小型化したタイプは最大電流が数割低くなっています。 12AX7は最大電流よりずっと低い条件で使われるので、実用には全く問題がありません。 でも実際には使用されない領域の最大電流が低いためにエミッションテスターではカソードが劣化してなくても不良と出てしまうので、注意が必要です。

実際にカソードの劣化を計るには、フィラメント電圧を下げてコンダクタンスの変化を見るのが一番正確です。 元気なカソードはフィラメント電圧が下がってもコンダクタンスはあまり低下しません。 くたびれてエミ減になった真空管はフィラメント電圧が1割下がっただけでコンダクタンスが何割も減ります。

コンダクタンステスターにはたいていこのエミ減テスト(ライフテスト)機能が備わっており、私どもも真空管をテストする時に使っています。

Genalex Gold Lion KT66

Gold Lion 続きですが、せっかくですからKT66も見てみるとしましょう。

KT77はEL34と互換ですが、KT66は6L6と近似とされています。 これはKT66は6L6よりフィラメント電流が高く、プレート電圧定格も高いなど、どちらかとスーパー6L6と言った性格の真空管だからです。

KT66のオリジナルはイギリスのMOV社製ですがこれはもうNOSや中古でも相当高価です。

現行品で私どもが取り扱っているKT66はGold Lion以外に中国製KT66-CH、タンソルのKT66-TSとJJのKT66-JJがあります。

このほかGroove Tubes社が販売していたロシア製のKT66HPがありますが、これは残念ながらもう製造されていません。

中国製KT66-CHはオリジナルによく似たつくりで、JJ とタンソルKT66はKT88のガラス管を流用した頑丈な造りとなっています。比べてGold Lion KT66はベースや外形など、オリジナルの雰囲気を踏襲しながら内部構造を現代風にしてあります。

オリジナルはガラスを伸ばした中にピンからのワイヤーを通してありますが これはKT66-CHもKT66HPも同じで、ここにプレートボックスを取り付ける際に高さが不均一になりがちです。JJとGold LionのKT66は、現行KT88と同じ工程で外形を均一にしやすくなっています。

Gold Lion KT66の造りはGold Lionの現行品に共通する良さです。真空管というとついつい外形を見てしまいがちですが、造りの丁寧さは内部のディテールに反映されています。

音質に関してですが、オーディオアンプで使うと現行品で標準とするKT66-CH よりもっと力強く、厚みがあります。 古いクラシック録音などと相性が良い印象でした。

またJTM45のようなギターアンプでも使ってみましたが、KT66-CHと良い勝負でした。ギターアンプではバイアスをちょっと低め(無信号時のプレート電流を低め)にすると高域に華やかさがでてきてよい感じです。

Genalex Gold Lion KT77

ご存知の方も多いと思いますが、Genalex Gold Lionはアメリカの会社が商標を買い取ったもので、現在Genalex Gold Lionブランドで数種の真空管が復刻板として発売されています。

このGold Lionシリーズの特徴は造りの良さで、たとえばマイカは精度よくきれいにカットしてあり、重めのガラス管に丁寧に封入してあります。ピンのハンダは驚くほどきれいですし、プレートボックスを合わせる圧着もきれいにしっかりとしてあります。

このGold Lion KT77も厚めのガラス管にきれいに封入してあります。EL34を使ったギターアンプではマイクロフォニックスが問題になる事があるので、管壁が厚いのは好ましいことなのです。オクタルベースは丈が低めの物ですが、全体の高さとしては普通のEL34と一緒です。

このGold Lion KT77の音質ですが、EL34と差し替えてオーディオアンプで鳴らすと、ビーム管特有の高域の抜けの良さがとても良い感じです。

特筆すべきはこのKT77はEL34の中域の良さを兼ね持っているところで、とかく飽和気味なコンテンポラリーの音源もバランスが崩れることなくこなす印象です。

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諸般の事情により長期休暇中になっていた真空管雑記ですが、本年度から装いも一新して発信を再開する事になりました。

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