HP6634B 修理

HP 6634B 0-100V 可変電源

先日かたづけしていたら見覚えのある箱がでてきました。 開けてみるとHP/Agilent 6634Bという可変電源が。 0−100V・1A出力、GP−IBインターフェースを内蔵し、全デジタル制御で内蔵ファンのスピードまでキーパッドから制御できてしまうというスグレモノです。

なぜほうってあったんだろう、と電源を入れてみて、思い出しました。 動作が安定しないので安く買ったのです。 セルフテストはOKでキーパッド入力に反応しますが、電圧と電流表示が不安定な上に過電流保護がついてしまいます。 内蔵ファンも速度が一定しません。

アジレントはもとはヒューレットパッカードの計測器部門が独立した会社で、HPの伝統を受け継いでサポート情報は豊富です。この電源もサービスマニュアルがアジレントのウェブサイトからダウンロードできます。

内部は基板が2枚

開けてみると内部はトランスと基板がたった2枚。 電圧チェックしていくと、内部の各DC電源電圧が異様に低いです。 アナログ回路の+/-15Vが低い。 ロジック電源も4Vぐらい。 出力用の電源も130Vあるはずが80Vしかでていません。 トレースしていくと電源トランスの二次交流電圧も低いです。

AC電圧切り替えジャンパー

プロテクトも掛かるし、どっかショートしてトランスに過負荷が掛かっているのだろうか。 おっかしいなぁ、とマニュアルのページを繰ると、この電源トランスは一次側のジャンパー配線でAC電源電圧を切り替えるようになっています。 これを確認すると、220VAC入力設定になっていました。 これをマニュアル通り、米国の120VAC仕様に設定して灯を入れたらあっけなく動きました。

AC電源電圧が半分にもなれば、表示が全くつかなかったりエラーコードが出たりと、動かないのが普通だと思います。 でもそこはHP・アジレント。 半分動いてしまうんですね。

幸運の572−3 (2)

幸運の572−3

SV811・572とも販売はスベトラーナブランドでしたが、ロシアのリャザン工場製です。 リャザン工場はもともと大出力送信管を生産していたのですが、高価な送信管は品質や使用状況管理のために製造番号がつけられるのが普通です。 そのためかSV572、SV811はすべて中にシリアルナンバーが手書きされています。

先月も日本、東南アジアと幾つかSV572−3のご注文があったのですが、通電試験中になんと写真のシリアルナンバー5723を見つけました。

シリアルナンバーがついている真空管そのものが珍しいですし、内部についているのでごまかせないですし、いろいろ考えても型番(SV572−3)と製造番号(5723)が一致する真空管というのはまずないと思います。

スタッフが、これはラッキーナンバーのSV572だと言い出し、幸運の真空管という事になってしまいました。 この幸運のSV572−3、無事にお客さんのところへ旅立って行きましたが、アンプで鳴らすと幸運を呼ぶっていうのはなかなか夢があって良いんではないでしょうか。

幸運の572−3 (1)

SV572-3 by BOI AudioWorks

1990年代にSV811, SV572といったオーディオ出力用に開発された大出力3極管が製造されていました。 中でもSV572は最終進化形と言ってよい大出力3極管です。

SV572は最大定格がプレート耐圧1000V、プレート電流210mA, プレート損失125Wととんでもない値です。  一番使いやすい低ミュー版のSV572-3データシートによるとA2級シングル、Ep=900V、Ip=100mA の動作点で 歪み率1.0%時で40Wもの出力がとれるとなっています。

外観はトリタンのフィラメントが明るく、またゲッター材がガラス管でなくプレートに塗布してあるので普通の真空管とはだいぶ違った独特の雰囲気です。 ガラス管も細身で小ぶりです。

このガラス管はSV572がストレートな筒状、そしてSV811はコーク・ボトル形状です。 この違いは単純に商品として違いを出すためだったようで、SV811シリーズにもストレート・ボトルのものがあります。

SV572−3はもう製造されていませんが、商社に在庫がまだあります。 それほど大量に売れる真空管ではないのですが、私どもがSV572−3を販売している数少ない販売店と言う事もあり、世界中から注文がくるようになりました。

このSV572−3で面白い話があったのですが、それはまた次回で。

Workbench

日本は暑いようですね。 こういう暑いときは真空管アンプをいじるのもけっこう大変です。

電子工作は最初は小さなスペースでやっているものですが、しょっちゅうやっていれば工作作業をするベンチを備えたくなってくるものです。 パソコン用の机で代用したりして作業スペースを確保するも、測定器や部品ケースがいつの間にか増え、気がつくと前より小さなスペースに縮こまって半田ごてを握っていたりします。

作業スペースが増えると物が増え、作業スペースはさらに小さくなるという、これはもうオームの法則と並ぶ、負のスペースの法則なのです。

この負のスペースの法則、実は世界中どこでも起きる現象のようです。オーストラリアから電子工作のビデオブログを発信されている方がいるのですが、彼はガレージに電子工作スペースを持っています。 これが手狭になったので自作で机を足しているのですが、場所がないので駐車する車の上に作っています。

新しいデスクはしっかりした一枚板でちゃんとオイルでフィニッシュもしており、さすがです。 でも前述の負のスペースの法則によるとこのデスクもすぐモノで一杯になり、ちょっと間違えば車の上に物が落ちてきそうです。
それにしてもガレージは暑そうなのですが、オーストラリアは季節が逆なので今はかえって涼しいのがうらやましいです。

12AX7VKA

Voskhod 12AX7VKA

ヴォスコード 12AX7VKA

あまり知られていない真空管工場でロシアのVoskhod工場があります。 ロシア語表記はВосход。

ロシア語の正確な発音は、えーっと、実はわかりません。

なので英語読みでヴォスコードとかヴォスコッドと呼んでいます。この言葉は陽や星が昇ると言う意
味だそうで、旧ソ連の宇宙計画にもつけられていた名前です。ロゴはロケットです。

このVoskhod工場製でポピュラーな真空管に6N23Pがあります。特性は6DJ8・6922と同等で差し替えできます。 欧米のお客さんで、「Voskhodのロケットロゴ」とわざわざ指定して購入される方がけっこういるぐらいで、特定のオーディオ用途にはファンがかなり多くポピュラーです。

このVoskhod工場が少し前から12AX7VKAという番号で12AX7の互換品を製造販売しはじめました。 外見的にはほんのちょっとですがガラス管が太くずんぐりしています。 音もギターアンプでは中低域が豊かになります。 オーディオアンプでもなかなか良い感じです。 スペアナで観ると平均的にちょっと1/f雑音が多いかな、と言う感じで、しばらくバーン・インして雑音レベルが下がるかみている状態です。

特記すべきは驚くほどマイクロフォニックス雑音が少ないのです。 内部構造をかなりコンパクトに作ってあるのもさる事ながら、ガラス壁も厚くしてあるようで、これがかなり効いているようです。 機械構造には共振は必ずあるもので、真空管の場合聞こえる周波数で共振しやすいピーク(高Q)があるとマイクロフォニックが引き起こすフィードバックの原因となります。

Voskhod 12AX7 and Gold Lion 12AX7

Genalex 12AX7と比較

12AX7VKAは動作中に出力をスペアナで観ながらあちこち叩いてみたり、音源を押しあててスィープさせてみても共振周波数が見つかりません。 これは大した物です。

2枚目の写真はゴールド・ライオンの12AX7と並べてみた物です。内部構造の小ささ、そして上下のマイカに何本もロッドを使っているのが見えます。

見た目はあまりわかりませんがやはりガラス管が明らかにちょっと太いので、もしかすると細身のシールドには入らないかも知れません。 バーン・インが終わり、いろいろ性格が把握できた時点でサイトに出す予定です。

フィラメントの明るさ

6L6GCのような真空管は捩られたフィラメントが絶縁スリーブの中に入れられています。なので通常は外からフィラメントが見えません。
6L6GC Filament

でも手作業で組み立てられる真空管は製造上のばらつきでフィラメントがスリーブの端からちょっとのぞいている事がまれにあります。もちろん動作には問題ありませんが、はみ出た部分のフィラメントは本来の役目のカソードの加熱をしないので無駄な部分です。

写真は6L6GCで、フィラメントが3ミリほどのぞいています。 二つあるように見えますが右側は放熱フィンに写った反射像です。

ナス管や特にトリウムタングステンをフィラメントに使った真空管はフィラメントが光って明るくなかなか雰囲気が良い物です。 これが普通のGT管やMT管は見えないのが普通ですが、フィラメント本体は写真のようにかなり明るいので、私たちも実はこの方が好みだったりします。

フィラメントがのぞいている真空管だけでペアを組んでみたらけっこう明るくていいかもしれないですね。でもこのように光る真空管はあまり無いので、気長に待たないといけないようですが。