6CA7EH改

パワー管のEL34はマーシャルやLeakに使われて、とてもポピュラーなパワー管です。

EL34はヨーロッパの型番で、アメリカでの型番は6CA7と言います。 ECC83が12AX7なのと同じですね。 なので昔、ヨーロッパ製のムラードやテレフンケンのEL34に6CA7の型番が付けられて売られてました。

6CA7は実は2種類あります。 上記のようにヨーロッパ製EL34が6CA7として売られていたのとは別に、アメリカで独自開発された6CA7があり、こちらは内部の構造が違い音も違うのです。

現行品の6CA7にはエレクトロ・ハーモニクスの6CA7EHとJJ 6CA7がありますが、両方ともオリジナルのシルバニア製6CA7を手本に設計されたもので、EL34とはまたちがった出音になります。

改良された6CA7EH6CA7EHは長期間製造されてきており、なかなか丈夫で良い真空管です。 これがいつの間にか改良されて放熱フィンが足されていました。 ちょっと見にくいですが、写真左側の6CA7EHには放熱フィンがついています。 

レシプロ戦闘機の「紫電」を改良した「紫電改」というのがありましたが、こちらは6CA7EH改です。

6CA7EHは同じバイアス電圧でより多いプレート電流が流れる傾向があり、普通のEL34と同じバイアス電流にするにはバイアス電圧をちょっと深くしてやらないとなりません。 この辺があまりポピュラーなでない理由かもしれませんが、もともとEL34より頑丈でさらにフィン付きになって頼もしくなりました。バイアスを調整して使いこなすとEL34とはまたちがった味わいの音が楽しめます。

真空管マッチング(都市伝説編)

真空管をマッチングや選別するのにまつわるちょっと面白い話題を幾つか。

マッチングするならプリ管とパワー管を同一ブランドに揃えるべきか

例えば12AX7はどのブランドでも12AX7として動作しますのでプリ管とパワー管のブランドを揃える必要はありません。 ただステレオアンプなど外観がきになるので同じロゴやメーカーで揃えたい、というのはありだと思います。

同じロットで揃えるべきか

同じロット内でもかなり偏差があるのが真空管です。またロシア製はデートコードがけっこういい加減(年と月が逆な場合がしばしばある)ですし、JJや中国製に至ってはいつ作られたかもわかりません。 同時に入荷した真空管はおそらく同一ロットでしょうが確認のしようがないです。 幸い、真空管はいっぺんに大量に生産するので、同じ時期に工場から出荷された真空管は同じ生産ロットと考えて良いです。

パワー管のグレードを揃えるべきか

パワー管の歪みやすさでグレード選別する、というのを身売りしてしまったアメリカの真空管商社がギターアンプ向けの宣伝文句にしてました。 コンダクタンスやプレート電流の高い・低いでグレードをつけていたようですが、結果的には大した違いにはならないものです。 この話題はけっこう面白いのでまたいつか。

このグレードに関するリクエストはアメリカのギタリストのお客さんからよくあるのですが、一番多いのが「グレード5(1−10でまん中)相当のパワー管を送ってくれ」というのです。ようするにフツーので良いよ、という事なのだと思います。

TungSol KT120 レポート

タンソルKT120は6550・KT88と上位互換発表されてから1年経ってしまいましたが、New Sensor社がロシアで製造するTungSol KT120がかなり流通するようになってきました。

Audio Research (ARC)もKT120を使用したアンプを発表しましたが、ARCの以前のパワーアンプでも6550・KT88をKT120に差し替えできるとの事で、アップグレードするアメリカやヨーロッパのお客さんが良く注文されるようになりました。

いままで相当数を販売しての経験ですが、今のところ品質の問題などは全くありません。

同じサラトフの工場で製造されるGold Lion KT88などと比べてもKT120はかなり大きいカソードを使っており、これが高パワーを実現する訳です。 でもこのカソードが大きくなればなるほどいろいろな製造上の問題が出てくるものなので、KT120の歩留まりの良さには正直言ってちょっと驚いています。

KT88と交換して使ってみた方々の感想は、KT88にはない低域のしっかりさがあるというご意見が多いです。

なお、KT120は6550・KT88と互換とは言うものの、KT88と比べて外形は1〜2センチ高く、さらにフィラメント電流が一本100~300mAほど余分に必要なので、フィラメント電源に余裕が無いアンプにはお勧めできません。 もし6550・KT88と差し替えて使ってみる場合は、高さの確認、また電源に関してはアンプメーカーにご確認される事をお勧めします。

 

真空管マッチング (プリ管)

プリ管のマッチングの話です。

12AX7のようなプリ管はコンダクタンスを計って選別します。 ムズカシイ話はおいといて、コンダクタンスは真空管の特性の一部をあらわすものです。 マッチングを取るというのは試験機で測定しコンダクタンス値が合っているプリ管を選別する事を言います。

これは必要かというと必ずしもそうではありません。実のところ現行品はそこそこばらつきが少ないので普通は選別しなくても実用上は大丈夫と思います。

じゃなぜ当店でプリ管のマッチング選別品を売っているか、という事になりますが、実はお客さん(特にアメリカ国内)からのリクエストが多かったためです。

真空管のばらつきを熟知しているユーザー層が選別をリクエストするようになったのだと思いますが、たしかに品質が向上したといっても現行品でばらつきが大きいロットはたまにあります。 NOS品でもばらつきが多いものは多いです。なので、例えば特性がかけ離れたプリ管をオーディオ機器の左右チャンネルで使うのを避けたい、とかフォノアンプはできるだけ均一な特性の真空管を使いたい、というこだわりはよくわかります。

なので、どのプリ管もご希望があれば選別してマッチング品をお送りできるようにしています。

フィラメント・フラッシュ

前にも書いているのですが、昔製造されたヨーロッパ製の小型管はフィラメントに通電すると一瞬明るく光るのがあります。知らないとまるで電球が切れるみたいなのでドキッとしますが、これが普通です。ムラードやアンペレックスなどのフィリップス系、それからジーメンス系の工場製によく見られ、問題ありません。

真空管は中にフィラメントが光っていてついつい白熱電球を連想してしまいます。 白熱電球が切れる時明るく光る事がありますが、真空管のフィラメントは材質も構造も全く違うものです。今時の普通の12AX7や6L6のような真空管を普通にオーディオやギターアンプで使っているとフィラメントが切れると言う事はまずありません。

でも、このフィラメントフラッシュ、アメリカ製のNOS管ではまず起きないのです。 この米・欧の違いはなんだろう、とかねがね疑問に思っていました。 アメリカではラジオ、テレビのコスト減のためにヒータートランスを省略し、フィラメントを直列に接続した方式が主流だったためとか、いろいろな説はあります。 でもどれもいまいち説得性に掛け、どうやら単純にフラッシュ発光を起こす材質をフィリップス系の工場などで使ったためという事らしいです。

なお、ごくまれにですが、ソブテックの12AX7LPSやJJの小型管でもフィラメントフラッシュを起こすのがあります。

真空管のマッチング(パワー管)

アンプで使うパワー管はたいていの場合選別して特性が近い物を選びます。でもこのマッチングって何よ、実際のところ必要なの、と聞かれる事があります。

パワー管は均衡に動作して欲しいので特性が近いものを選別します。 バランスが崩れているとクロスオーバー歪みが増えたり、トランスの磁気飽和によって低域がでなかったりします。 極端な場合、プッシュプルの一本だけに全部電流が流れてしまうと過熱してしまったりもします。 なのでプッシュプルにはマッチングペアは必要です。

ただ、どれぐらい近いペアが必要かと言えば測定器で微妙な差が測定できても、そこそこあっていれば音にそんなにはっきり違いが出るものではありません。

なので、当店で時には神経質なぐらい選別しているのは、これはもう自分たちの好みとこだわりでやっている所があります。

重くて熱くてなにかと不便な真空管アンプをわざわざ作ったり使ったりというのはそれなりの思い入れがあるからだと思いますが、そこに使う真空管にもやはりこだわりがあるものなのです。

さらに真空管は手作りで個体差が大きいものなので、ガラス管が傾いてたり高さが違ったりとばらつきがあります。 ある程度の違いはどうしようもないのですが、メーカーによってはばらつきが多きかったりします。

使うアンプの機種がわかっていると、電気特性はばっちりあってるんだけど、外見はもうちょっと近くないとダメだね、と選別するスタッフが試験機に並んだ真空管を前にため息ついてたりします。