10年目の正直

みなさまお元気でしょうか?

気がついたら最後の更新からなんとも長い間が経ってしまいました。 アクセスログを見ると更新が無いながらもこのブログも毎日そこそこの人数の方が訪れているようです。

なので、幾つかあるテーマで何か書こう、と書きはじめるのですがちゃんと記事にならず、という原稿がいくつもたまってしまいました。 ちっとも更新されないのに書きかけの原稿がたまるばかりです。

ところで、もう昨年のことなのですが、BOI AudioWorksのサイトをはじめて10周年になりました。この10年の間に世界中数十カ国へ発送した真空管の数は数万本になりますが実のところあまり実感がありません。なぜかと考えると、真空管アンプで音楽を弾いたり聞いたりするこのワクワク感、これをお客さん達と共有している感触が10年前と変わってないと言うのが大きいと思います。

思えばこのブログをはじめたのも日本のお客さんとコミュニケーションできたら良いな、という単純なものでした。ならば欲張らず気張らず、進行形でもいろいろ書くようにすれば良いのではないか、と今更ながら気がつきました。

ここはアプローチを変えて思いつくままに、更新頻度向上を目的に書いてみようかと思います。

Telefunken EBIII

前の記事がメリークリスマスですからもう3ヶ月。時の流れってほんとに早いですね。

よく見に行ってるドイツの方のブログがあるのですが、とても面白い記事がのってました。

ヨーロッパには2A3に近い特性のAD1という直熱三極管があります。耐圧・損失は2A3より高いのでお兄さんなのですが、推奨動作点が近いので互換で使えます。 ただフィラメント仕様とベースが違うので改造が必要になります。

AD1はかなりニッチな球ではありますが、日本ではご存知の方はたくさんいらっしゃると思います。アメリカの2A3の普及型はST管に独特な2つの膨らみを持たせたグラマー美人ですが、AD1はフラットプレートで見るからに繊細です。

アメリカでは1940年台に2A3が軍用に大量生産されたこともあり、外国球AD1はアメリカでは幻の球です。アメリカの真空管オタクでも名前も知らないという人は多いと思います。また2A3もAD1も60年以上前に生産された真空管ですが、AD1は2A3のようにソ連時代に共産圏で大量コピーされなかったのでこれから先アメリカで人気が出るというのもあまり無さそうです。

AD1は派生型がいろいろあるのですが、テレフンケンが作ったEBIIIというのがあります。この真空管はとても珍しく、Frankさんの真空管データサイトにも載ってないぐらいです。 そしてEBIIIは本国ドイツでも希少品らしく、上記のドイツの方のブログでも以前特集記事を書かれていたぐらいなのです。

ところが、このドイツの方が見つけてしまったのが日本の真空管アンプに載せられたEBIII。 ソースがどこか書いてないのですが、「アジアの人たちはなんてクレージーなんだ」とタイトルは大げさなのですが、実はそういうのを見つけて嬉しげな記事にしています。

2A3 Manic  (ドイツ語) 

メリークリスマス

メリークリスマスです。 皆さんいかがお過ごしでしょうか。こちらはクリスマスは無事過ごしましたが、大きな注文がたくさん入っているのでかなり忙しくしております。 日本はもうすっかり冬ですね。

そうそう、ブログに使っているWordPressのバージョンが上がったのにつれて、表示が変になってしまいました。特に過去記事が変だったので、レイアウトを換えてみました。 もし表示とかおかしいよ、という場合はですね、そっと教えてもらえるとありがたいです。

それにしてもソフトウェアとかコンピューターとかどんどん新モデルとか新バージョンが出るのは良いんですが、前動いてたモノがどんどん動かなくなるし動いていても取り残されて消滅するのが当たり前のようです。例えばアメリカでは音楽はCDではなくストリーミングにどんどん変わっていってCDを売っているところがどんどん消滅しつつあります。

でも真空管は50年前のモノでもフィラメントを灯してやればそういう変化も無関係に鳴ってくれます。 そうやって年月で風化しない安定が身の回りにあるとほっとしますね。

ノイズ

先日、真空管機材からノイズが出ると言うのでトラブルシューティングを手伝った時のことです。 問題は最近真空管を交換したその機材からジーとノイズが出るようになったとの事でした。 

そこでこれは真空管だろう、というので真空管を2,3回交換したのだけれども同じノイズが出るのです。 真空管そのものからノイズが出るというのはままあるのですが、当方で時間をかけて確認した真空管に何回交換しても出るとなると、問題は他にありそうです。

真空管を交換した時に同じタイミングで出やすい問題というのは実はいくつかあります。 一番多いのが接触不良です。新しい真空管がソケットとちゃんと接触していなかったり、ソケットピンのハンダが割れてたりします。 これが起きるのはソケットの品質やハンダ工程の良し悪しもありますが、多くの場合は真空管を左右に傾けながら抜き差しを繰り返したせいです。 これはソケット内の金具をこじ開けているようなものなので後々問題が起きてしまいます。

あと意外と多いのが同じタイミングで他の部品の不良や問題が判明するケースです。 特にビンテージアンプだと、電解コンデンサーの容量抜け、カップリングコンデンサーのリーク、抵抗値のドリフトなどのトラブルはつきものです。 もっともこのケースは問題がすでにあって特定するために真空管を交換してみた、というのも多いと思います。

で、今回の機材は実はラックマウントのレコーディング機材。 コンディションも良いですし、動作には問題無い。 でも真空管を交換してからジー音が出て止まらないのです。 

そこでしょうがない、と機材をラックから出してベンチ上でつないでみると… なんとノイズが出ない….!  とここまで来ると察しの良い方はわかってしまうとおもいますが、実は単純なアースの問題でした。 機材をラックから出して真空管を交換して戻した際、ケーブル類に問題がありつながるべきでないグランドが接続されてしまったようです。 それでラックに戻して接続するとグランドループでノイズを拾うようになってしまったのです。 真空管を交換したタイミングで起きてしまったのですっかり騙されてしまいました。

ちゃんとケーブルのグランドも確認して所ジー音は無事なくなっていました。 それにしてもこの季節やっぱり真空管機材は良いですよね。

デカトロン・コンピューター

皆様お久しぶりです。 冬ですね。真空管の季節ですね。 不思議なものでこの時期は真空管アンプが恋しくてたまらなくなります。 アメリカはこの時期は帰省して家族と一緒に過ごす季節なのですが真空管のオーダーがとても増える時期でもあります。

ところで最近WIREDに出ていたニュースですが、イギリスでデカトロン計数管を使用したコンピューターがレストアされ公開されました。なんと実働する世界最古のコンピューターなんだそうです。

デカトロンというのはプレートが共通でカソードがいくつもありガスが封入されています。 カソードの近くに電極があってこの電極にパルス電圧を加えると各カソードがプレートと順番に導通するので計数できるというわけです。 まぁロータリースイッチの真空管版みたいなものですね。 

5963などを組み合わせたカウンター回路は真空管コンピューターに多用されましたが、それなりの大きさになります。デカトロンはもっと小型になるので良いというのがありますが、それよりなによりデカトロンはガス封入管なので導通しているカソードが光るのです。なので動作していると光がチカチカとします。 下記リンク先にデモンストレーションの動画がありますが、壁いっぱいの大きさでカタカタと音がしてチカチカと光るこの光景、子供の頃のSF漫画で幾度と無くみた光景そのもののような気がします。なんとも懐かしい気分になってしまいました。

デカトロン・コンピューター再起動

このデカトロンコンピューターは実際に数年間使用されたそうですが、こういった後世に継承されない一風変わった仕組みを積極的に活用するのはいかにもイギリス人らしいですね。 トライアンフ、MGやオリジナルのミニなど、古い英国車には現代車に無い面白い仕組みがたくさんありますが、それと通ずるものがあります。

真空管の怪

怪談にはまだちょっと速いですが、時折、真空管って自分の意志を持ってるのではないかと思う時があります。

12AX7の怪

例えば、12AX7で、あったまってくるとアンプ出力に「カンカンカン」と水道管を工具で叩くような音が出て来るのがありました。 真空管は点灯してすぐは内部が熱で膨張するので音がするのがまれにありますが連続してはでません。

ところがこの12AX7はカンカンと小さな音から始まり、だんだんと大きな音になりしばらくすると消えていくのです。スピーカーで聴いていると遠くから近づいてきたのが去っていくようで、けっこう不気味でしたが、どうやらこれは回路が不安定だったようです。

ひととき電子楽器に真空管を載せるのが流行り、この12AX7の怪が起きた機材もオペアンプに真空管を組み合わせたマイクプリアンプでした。 この手の機材はレギュレーションの悪い数十ボルトの低電圧で真空管を動作させている物が多いのですが、低電圧条件で同じ12AX7でもかなり動作が違ったりします。

楽器ですから何でもありですし、こういった回路で真空管を換えてみると面白いのですが、モノによっては動作が安定しなかったりします。この場合も真空管のウォームアップ中に回路動作が不安定になり、オシロでみたら間欠発振らしき物が起きていました。

6L6の怪

さらにしばらく前の話ですが、お客さんのギターアンプで、特定ブランドの6L6を使うと赤熱してしまうというのがありました。 赤熱というとバイアス設定が間違っているのでは、と思いますがバイアスはきっちり合わせてあり、しかも通常は問題が無いのです。 それが、何かの拍子、特に電源の入れ方で赤熱してしまうのです。

自分も経験がありますが、こういうのは一番起こってもらっては困る時に必ず起こるもので、しかも予期してない時にどーんとやってきます。 まるで真空管がこちらの様子をうかがっており、チャンスが到来すると今だ!と息を止めてふんばって赤熱する。そんな感じです。

この6L6の赤熱現象には、お客さんも大変困っておられたのですが、これは発振現象ではないかという事になりました。ビンテージのギターアンプなどで発振しやすいものがあり、このアンプもそういった一台でした。 そういったアンプでも必ず発振を起こすという訳では無く、普通に使える事が多いものです。 ですがもともと発振しやすい傾向にあるアンプはこの場合のように条件がそろう(特定ブランドの6L6で特定の電源の入れ方など)と簡単に発振を起こしてヒューズを飛ばしたりします。

真空管が伝えたい事

真空管アンプや真空管も、音質ばかり取り上げられる事が多いですが、安定性も同じくらい大事なポイントではないでしょうか。

アンプによってはもともと動作に十分マージンが無かったり、変な改造をされてたり、さらに高価なビンテージアンプは意外と安定性に欠けていたり、部品が経年変化を起こして動作点がずれていたりします。

こういったアンプで問題が起きるのは真空管を元気な新品に交換した後だったりするのでとかく真空管が原因に見られがちですが、真空管のバイアスがきちんとしており、熱暴走などで説明がつかない場合、もっと違う問題の可能性を疑っていいと思います。

時折あった真空管の怪現象は実は真空管が「これ、ちょっとあぶないですよ」と教えてくれようとしてたのかもしれませんね。