キットアンプ

アメリカにポピュラー・メカニックスと言う雑誌があります。 日本の「子供の科学」をそのまま大人向けにしたような科学・技術雑誌です。

内容は電子工作から日曜大工、自動車修理から宇宙船までとにかく男の子が興味を持ちそうなトピックばかり扱う雑誌です。これが大の大人向けだというのがいかにもアメリカらしい所ですが、創刊は1901年でいまだに出版されているから驚きです。

この雑誌のアーカイブが最近Google Booksにスキャンされて出てくるようになりました。 これが面白いのです。 特に真空管アンプの黄金期だった1950−1960年代のオーディオ記事がやたらと面白い。

例えば1960年3月号のハイファイの説明記事があります。ハイファイとはなんぞや、と周波数特性、定格出力対高調波歪、さらに混変調歪にまで踏み込んでていねいに図入りで説明してあります。どうやら執筆者はかなりのオーディオオタクだったようで親近感を持ってしまいます。

1960年と言えばアメリカでもまだモノラルが一般的だった頃なので、「スピーカーはモノラルのままでも、アップグレードするならステレオアンプに投資するのが賢明だ」というくだりもあります。 確かにこの頃のステレオアンプは両チャンネルをパラ接続できるというのがうたい文句で、その際パワーが倍になるというのがポイントでした。

さらに面白いのが「キットアンプは完成品アンプに遜色無い」と、組立ができる人ならキットはとても安価にできると勧めています。ベストセラーと言われるDynaKit ST70が当時100ドルですが、キットは安価と言っても1960年のアメリカの一般家庭の平均年収が5300ドルだった事を考えれば安くはありません。 現代の感覚だとデジタル一眼一式をそろえるような物でしょうか。

参考までにダイナコ ST70オリジナル美品は2010末の現在400-500ドルで取引されており、値上がり傾向にあります。 復刻版のキットもでていて、これは700−800ドルです。

キットアンプの選択肢として当時の代表的なアンプが幾つか写真に値段入りで出ています。記事に出ているキットはEICOやDynaKit, Knightなどアメリカで未だにファンが多いアンプ達で、1960年当時、きっとみんなワクワクしながらこの記事を読んでいたんでしょうね。